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横浜家庭裁判所 昭和61年(少)925号 決定

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

一  非行事実

少年は横浜市立○○中学校2年に在学するものであるが、1年時より些細な理由で再々母親に暴力を振い、又学校生活にも適応できず大半欠席する有様であつたところから、虞犯事件として当裁判所に係属し、昭和60年9月18日児童相談所送致の処分を受け、以来同所の指導を受けて来たものであるが、行動が沈静していたのは僅か2・3週間位で、その後は再び母親に対して連日の如く暴力を振い、その程度も次第に激しいものとなり、母親は耐えられず知人宅へ避難したりする有様であり、前回審判時に約束した学校への登校も殆ど行わず、欠席勝ちであるばかりでなく、担当児童福祉司の指導にも従わない。更に昭和61年2月12日の暴力により翌13日母親は横臥する状態となり、当日指導のため福祉司が家庭訪問したところ、その目前で少年は又も母親をヘアドライヤーの柄で殴つたり、髪の毛を引張る等の乱暴をし、その上静止しようとした福祉司に対しても暴力を振つて抵抗する等、保護者の正当な監督に服さず、自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖があり、このまま放置したのでは、その性格、環境に照し、将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞れがあるものである。

二  適条

少年法3条1項3号イ、ニ

三  処遇について

調査の結果によれば、少年は知能は普通域であるが、視野が狭く考え方は主観的で柔軟性を欠き、又その性格は非常に執着性が強く、些細なことにこだわつて不安定となり、不平不満を持ち易いという、情緒的にも社会的にも極めて未熟な人格の持主で、適切に自己を表現し、他を思い遣ることができない処から、周囲とのかかわりが持てず不適応を起し、更に事態打開に努力する積極性や自信も欠如しているため、結局自分の中に籠り何事も身近なものに依存する有様で、その偏りは軽視し得ぬ状況である。このように少年の自我の健全な発達が阻害され、偏つた性格が形成されてしまつたのは、乳児期から父母の間に争いが絶えず、少年自身父親から暴力を振るわれたことも再々で、家庭の中で情緒的な安定感が殆ど得られず、又一貫した躾も施されずに来たことが最大の原因であると考えられるのであるが、再々の母親に対する暴力は、周囲に適応できない苛立ちや、解決策の見出せない不満を、依存の対象である母親に闇雲にぶつけ、更に母がそのような少年の内面を理解し、充分受け止めてやれないところから、一層苛立つて激しさを増す結果になつているものと思われる。従つて少年に社会適応性を身につけさせるには、強力な働きかけを行うことにより、その心を開かせ、人格の成熟を促すことが不可欠であるが、最近の少年はますます内に籠る傾向が顕著となり、防衛的になつて、自己の行動を合理化することを覚え、一部他者をして容易に了解困難な言辞を述べたりすることがあるほか、外部からの指導や助言を拒否し、排除しようとする態度がみられるから、在宅による指導でその効果を期待することは難しいと云わざるを得ない。従つて少年についてはこの際施設に収容し、集団の中で生活させ、基本的生活習慣を身につけさせると共に、専門的な矯正教育を施すことにより、自己の問題点に気付かせ、内省を深めさせてその成長を援助してやることが適切である。

以上の次第で少年については少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用し、これを初等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 千葉庸子)

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